運転中、後部座席に乗っているアーティストA君が「これで随分良くなったな…」とつぶやいた。 両手を頭の上で組み、妙に深刻な顔をしている。「何が良くなったの?」と聞くと、こちらを横目で見て「社会保障ですよ」と、ちょっと面倒臭そうに言った。彼が居たはずの後部座席には女性のアーティストBさんが座っていて、A君は後部座席の、更に奥の座席に移動していた。「ふーん、社会保障?」僕がそう言うと、二人は顔を見合わせた。どうやら共通の認識を持っているようだ。「僕はよく知らないんだけど、それが何のことなのか、良かったら教えてよ」というと、(そんなこと知らないの?)とでも言いたげな仏頂面のA君とは裏腹に、Bさんはニコっと笑い、無言ではがきサイズのクロッキー帳を僕に手渡した。それは縦位置で使われ、開くと上のページに既成の小さいカレンダーが貼ってあり、下のページに日付入のスケッチが描かれていた。スケッチは短い時間で描かれた感じのもので、少し色も入っていた。彼女はちょうどグループ展をやっている最中なので、その展示の作品と関係有るのかもしれないと、カレンダーと日付とを確認するように何度かめくり直して見てみた。あまり関係は無さそうな印象だったので、そのことを彼女に質問をしたいいところで目が覚めてしまった。
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