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隣のビルの屋上から地下まで降りて行くと「そこ」に行けるのだ。僕は東京藝大の絵画棟の一階から地下に降りる階段に似た空間を思い描いていた。
窓からは隣のビルの狭い屋上がよく見える。低木が少し生えている他は、砂岩のような黄色っぽい岩がゴツゴツしているだけだ。何やら穴のようなものが見えるが、それが屋上への入り口なのだろう。2、3人の人が居て、それぞれ何をしているかわからないが何やら動いているのが確認できた。屋上は常にビデオカメラで録画、公開されている。僕はビデオに記録された、背中に何かの文字や絵のようなものが描かれている自分の裸の後ろ姿の映像を想像している。全裸で行くつもりなのだ。
草が生い茂る空き地。そこに母が眠っている古墳のようなものがある。5m程盛り上がった古墳は「そこ」と少し似ているような気がしている。「そこ」に行くつもりだったのが、僕は間違って母の古墳に来てしまったのだ。台風でも通り過ぎたのか、背が高かった草木が倒れ、遮るものが無くなったせいで古墳はより目立っていた。葦のような草は途中でくの字に折れ、茎の下の方にトンボのような羽を持つ昆虫が避難している。のどかだったこの空き地にたまたまいて、災難にあってしまったその虫を見ながら運というものについて考える。母の古墳は草木で作られたような屋根があったが、それもかろうじて残っている程度。全体的には荒れた印象だ。
オフィスビルのような小綺麗な場所に僕は居る。知らない女性が隣のビルにある「そこ」に行く道順を教えてくれた。「エレベーターでこのビルの下まで行き、隣のビルの屋上から階段を降りて一番下まで降りる」
それはほぼわかっていたことだが、僕は心の中で、教えられたその道順を繰り返している。
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